研究内容
Our Research-Nuclear pore complex (NPC)
1) 核膜孔複合体周辺の構造ダイナミクス
2) 核膜孔複合体、核輸送およびその関連疾患
3) 核膜孔複合体へのウイルス侵入ルート
私たちは何を発見したのでしょうか?
2008年、私は金沢大学に赴任し核膜孔複合体(NPC)の研究を行う研究室を立ち上げました。 NPCは核と細胞質を隔てる膜=核膜を貫く穴を形作るもので、核―細胞質間の物質輸送を制御しています。
分子サプライチェーンの関所としての核膜孔:
クロマチン・転写制御と細胞外小胞動態の統合ナノ可視化による疾患診断基盤の構築
細胞の核は、すべての遺伝情報が保管された中央政府の本部のような存在です。その境界に位置するのが、核膜孔複合体(nuclear pore complex, NPC)――核膜に埋め込まれた通関ゲートかつ物流拠点です。
これまでの主な発見:
NPCを「分子サプライチェーンの関所」として、20年以上にわたりその構造・機能を探究してきました。特に、核膜孔内部に存在するFGフィラメントの動的構造を“Spider Cobweb(クモの巣)モデル”として提唱し (ACS Nano 2017)、NPCの機能的可塑性と疾患との関連を示しました。 ( Richard Wongが「世界で最も影響力のある科学者トップ2%」に選ばれました。)
🔹 1:物流の中枢としてのNPC ― 分裂期の秩序維持
研究初期には、NPC構成因子(Rae1, TPR, Nup88など)が細胞分裂期における染色体分配の監視官として働くことを解明しました。
• Rae1とSMC1のリン酸化結合(PNAS, 2008)
• TPR–Aurora A、Nup88–NuMA経路(Mol Cancer,2010)
これらの知見は、核膜孔が分裂期にも“関所”として機能し、染色体輸送とその品質管理に関与していることを示しました。
🔹2:情報交通のハブとしてのNPC ― 転写・クロマチンとのクロストーク
次に私たちは、NPCがクロマチンや転写因子の制御拠点として働くことに着目し、がん細胞がNUP62リン酸化を介してp63の核内移行を制御することを明らかにしました(EMBO Reports 2018)。NPC構成の変化が癌性輸送の促進に関与することを示した初の報告です。
• Nup62がp63転写因子を輸送し細胞運命を制御(EMBO Reports, 2018; News & View)
• KPNA4–NPC経路による癌性フィードフォワードループ(Oncogene, 2020)
• NPCがスーパーエンハンサーをIDRで捕捉(Cell Chemical Biology, 2024)
これらの成果は、NPCがゲノム制御の境界制御装置として機能しているという新たな視点を提供しました。
🔹3:侵入者の監視官としてのNPC ― ウイルス侵入のナノ可視化
NPCは外敵からの侵入も監視しています。
• SARS-CoV-2 ORF6やNSP9がNPC機能を攪乱(BBRC, 2021–2023)
• HIVやインフルエンザウイルスの核内侵入戦略(Cell Host Microbe 2024)
• HS-AFMにより、ウイルスタンパク質とNPC間の動的相互作用をミリ秒スケールで初可視化 (Nano Lett. 2020)
私たちは、NPCが**「分子の密輸入」に対する免疫的関所として働く様子を、世界で初めて動画として描写**しました。
🔹 4:輸出港としてのNPC ― エクソソームの監視と診断応用
NPCは単なる入口ではなく、細胞から外部へ情報を送り出す輸出ゲートでもあります。私たちは、**細胞外小胞(EV)**を次世代バイオマーカーと位置づけ、そのナノ構造・抗体結合・病態変化をHS-AFMで解明しました。
• Spikeタンパク質を持つsEVと中和抗体の結合(Nano Letters 2023)
• ストレス条件下でのsEV形態変化(JEV 2022–2025)
• sEVとがん免疫チェックポイント(JEV 2025)
これらは、**NPCとEVを繋ぐ「ナノ物流連携モデル」**を構築し、ナノ診断技術の基盤へと発展しています。
🔹 5:分子インテリジェンスの統合 ― HS-AFMによる可視化革命
私たちは、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を核としたナノ可視化技術によって、以下のような複雑な分子動態をリアルタイムで“見る”ことに成功してきました:
• エストロゲン受容体のDNA認識機構とLIDモデル(ACS Nano 2025)
• プロタミンによるDNA凝縮機構とCARDモデル(NAR 2025)
• ヒストンH2AのDNA inchworming(J. Phys. Chem. Lett. 2021)
• Spike–sEV–抗体複合体のドッキング(Nano Lett. 2023)
これにより、“静的構造”から“動的診断”へというパラダイム転換が進みつつあります。
🎯 今後の展望:NPC–クロマチン–EVが織りなすサプライチェーン・ダイナミクスを、疾患診断へ
私たちは、NPCを軸とした分子サプライチェーン全体(輸入–情報処理–輸出)の時空間ダイナミクスを明らかにし、 がん・ウイルス感染・神経疾患などの診断・治療に繋がるナノ診断・ナノ指標技術の構築を目指しています。
インタビュー
放送局:北陸放送番組「ココカラ」
内容:Richard Wong教授が自ら、自身の研究内容について紹介します。動画は下記をクリックして頂ければご覧いただけます。
【細胞の命運を握る、ナノポアの謎に迫る!(2019-8-28)】
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